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交通事故

2021/12/20

令和3年11月2日最高裁判例解説(人的損害と物的損害の消滅時効の起算点に関する判例と交通事故実務への影響)

令和3年11月2日に、最高裁判決が出ました。
交通事故にあわれた方にも関係する判例ですので、ご紹介いたします。

交通事故での損害とは、人的損害物的損害に分けて考えられます。
人的損害とは、身体傷害を理由とする損害で、治療費や慰謝料、休業損害や後遺障害逸失利益などがあります。
物的損害とは、車両損傷を理由とする損害で、修理代や代車代、休車損などがあります。

そして、この訴訟で、原告は、人的損害と物的損害の双方を請求しました。
最高裁で判断された争点は、原告の物的損害についての請求権が時効により、消滅しているかという点です。
この点に関し、最高裁は以下のように判示し、原告の物的請求権は時効によりすでに消滅しているとしました。

交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても、被害者が、加害者に加え、上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行するものと解するのが相当である。
なぜなら、車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは、これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても、被侵害利益を異にするものであり、車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は、身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権であると解されるのであって、そうである以上、上記各損害賠償請求権の短期消滅時効の起算点は、請求権ごとに各別に判断されるべきものであるからである。
(最判令和3年11月2日)

この判決の事案では旧民法が適用され、物的損害、人的損害双方とも時効期間は3年でしたが、現在は民法が改正され、物的損害の時効期間は3年、人的損害の時効期間は5年に変更となりました。
物的損害と人的損害のそれぞれの時効期間が異なるので、今後はより一層、それぞれの時効に留意することになると思います。そのため、気を付けていれば、この案件のように時効により消滅することはあまりないのではないかと思われます。

時効以外での弁護士の業務との兼ね合いでいえば、訴状や判決の書きぶりがこれまでと変わるという点などがあるかと思います。実際、裁判所から物的損害と人的損害のそれぞれについて、分けて書くように連絡を受けた弁護士もいるようです。

最高裁の判例は、その後の実務にも影響するので、引き続き注視していきたいと思います。